昔好きだった時間を取り戻して見つけた光
失われた時間と、心に残った小さな種
体調が優れない日々が続くと、以前は当たり前のように楽しんでいた多くのことが、遠い存在になってしまいます。読書が好きだったのに文字を追うのが辛くなったり、音楽を聴くとかえって気持ちが沈んでしまったり。活動的な趣味はもちろん、静かに過ごす時間さえ億劫になることもありました。
何も手につかない、何も楽しめない。そんな状況は、心にぽっかりと穴が開いたような、あるいは大切な何かを失ってしまったような感覚をもたらします。かつて好きだったものから遠ざかるにつれて、「自分らしさ」まで失われていくような不安を感じることもありました。
ふたたび触れた、かつての喜び
そんな日々の中で、ほんの少しだけ心に余裕が生まれた時がありました。外はまだ雨の音だけが聞こえ、部屋の中も静まり返っていましたが、ふと、若い頃に何度も読み返した小説のタイトルが頭に浮かんだのです。
ベッド脇にその本があることを思い出し、おそるおそる手を伸ばしてみました。ページを開くのも久しぶりで、埃っぽい匂いがしました。内容はほとんど覚えていませんでしたが、美しい風景描写や登場人物の心情を表す言葉が、不思議とすっと心に入ってきました。
最初は数ページを読むのがやっとでしたが、少しずつ読む時間が長くなりました。物語の世界に没入するほどではないけれど、文字を追うこと、そこに描かれた世界を想像することが、ほんのひととき、現実の辛さから離れさせてくれるのを感じました。
同じように、昔好きだったけれど最近は全く聴いていなかった音楽も、イヤホンを通して静かに流してみました。アップテンポな曲はまだ疲れてしまいましたが、メロディーが穏やかなクラシックや、かつて心を落ち着かせてくれたアーティストの曲は、すんなりと受け入れられました。
耳から入ってくる音、目に映る文字。それらは、体調が悪くなる前には当たり前だった「好き」という気持ちを、静かに思い出させてくれました。完全に元気だった頃と同じように楽しめるわけではありません。それでも、かつて自分が何に喜びを感じていたのか、何に心を動かされていたのかを思い出す時間は、失っていた自分の一部を取り戻すような、小さな希望のように感じられました。
無理なく、少しずつ
体調不良と向き合う過程では、かつてのようにできなくなったことに目を向けがちです。しかし、無理のない範囲で、少しずつでも昔好きだった時間やものに再び触れてみることは、心を休ませ、前に進むための小さな力になるのかもしれません。
それは、大好きな本を読むことかもしれませんし、お気に入りの音楽を聴くこと、昔撮った写真を見返すことかもしれません。あるいは、ほんの一瞬だけ窓の外の空を眺めること、淹れたてのコーヒーの香りを深く吸い込むことなど、本当にささやかなことかもしれません。
完全に元通りになることを焦る必要はありません。大切なのは、「好き」という小さな気持ちを、もう一度心の中に灯してあげることのように思います。このサイトで、皆さんの見つけた「小さな希望」に触れることが、また誰かの心を温め、新しい光を見つけるきっかけとなることを願っています。